
2025年4月から学長に就任した船﨑健一学長が綴る、八戸工業大学での日常です。
北国の冬は雪抜きで語ることはできません。
私は新潟県上越市の生まれですが、上越市の高田地区(旧高田市)は、海岸から10km程度しか離れていないにも拘わらず、「北越雪譜(江戸後期に鈴木牧之によって著された書籍)」の中でも積雪が一丈(約3m)を超える程であったと記されているくらいの豪雪地帯です。明治時代にオーストリアの軍人であったレルヒ少佐が国内で最初にスキーを紹介し地元民にスキーを教えたところも高田でした。年間の降雪量は青森市が圧倒的ですが、上越市は2日間で2mも降雪量があるなど、いわゆるドカ雪でも有名で、最も多かった年(1945年)には3.8m程度にまで達したそうです。私が高校3年生のときも一晩で1m以上降り、高校が臨時休校になったこともありました。冬は雪との戦い、それが私の脳裏に深く刻み込まれています。
青森県は新潟県以上に豪雪地帯であり(青森市は世界一の豪雪都市と評されています)、ニュースでもしばしば取り上げられています(酸ヶ湯温泉はあまりにも有名ですね)。八戸市は太平洋側の面しているため、弘前市や青森市など津軽地方の都市と比べ積雪は圧倒的に少なく、除雪作業は比較的楽なようですが、それでも除雪は冬の関心事の一つであることには変わりないようです。特に地方では自動車抜きの生活は考えられないため、道路はもとより駐車スペース周辺の除雪が不可欠であり、積雪量の多いところでは、その雪の処理が大きな問題になります。処理できない場合は家の周りで雪の山ができ、人や自動車の往来すらも困難になることもしばしばです。除雪作業の大変さは経験した者でなければ分からないと思いますが、春になれば消えてなくなるもののために払う労力の空しさはなんとも言えないものです。

そのような冬にも色々な楽しみがあります。子供の頃私が好きだったのは「凍み渡り」です。雪の表面が昼間の日光で融け、夜間の放射冷却でしっかりと凍り付くことによって表面が氷の様に固くなり、その上を自由に歩けるようになることを指します。田圃のように普段歩けないところを自由に往来できるので、小学校への登校路をショートカットするなど、友人達とその自由さを満喫したものでした。また、今から考えるととても危険な遊びだったと思いますが、寺院のような大きな屋根の建物周辺では雪が数メートルの高さの山のようになり、そこを簡易スキー場に見立ててスキーに興じたものでした。といっても、スキーはあまり上達しませんでしたが。
比較的雪の少ない八戸における冬の楽しみの一つは、スケートではないでしょうか。「氷都」を標榜する八戸ではスケートが盛んです。実際、第80回国民スポーツ大会(青の煌めき国スポ・障スポ)の冬季大会のスケート競技会、アイスホッケー競技会が八戸市、三沢市で開催されたほどです。なお、本学にもアイスホホッケー部があり、インカレの常連校として有名です。

そして、八戸での冬の最大のイベントは、なんと言っても「えんぶり」です。「冬来たりならば春遠からじ」、東北の長い冬も終わりが見え始める2月17日〜20日の間、その年の豊作を祈願するお祭りが八戸市中心街で執り行われます。えんぶりは、朳(えぶり)という、田植え前の田圃の表面を平らに均す道具があるようですが(野球のグランド整備で使うトンボに似た農具)、それを模した棒を用いて、太夫という大人達が馬の鬣(たてがみ)を模した烏帽子を被り地面を摺るような動作を行うのがえんぶりの代名詞ともなっています。太夫の舞は勇壮で躍動感のあり、馬が固くしまった田圃の土を力強く掘り起こす様を彷彿させます。また子供達は、布袋様や大黒様、恵比寿様など七福神の衣装を纏い、きらびやかな舞を披露して、見ているものを和ませてくれます。各地区にえんぶり組があり、その地区の多くの種類の舞が代々受け継がれ、伝統を紡いでいます。
立春を過ぎたとは言えまだまだ寒い2月の中旬に行われる「えんぶり」は、「やませ」というオホーツクからの冷たい風で作物の成長が阻害されることに苦しんできた南部地方の人々の切なる願いや祈りを表現するもの、と見ることができるでしょう。夏の三社大祭もそうですが、このような祭りを大切にしてきた八戸の人々の地域への深い愛情と世代を超えた連帯に深い感銘を覚えるとともに、八戸の魅力を改めて感じます。
日本は四季のある国から二季の国になった、という言葉も聞かれるようになりましたが、八戸ではまだまだ四季をしっかりと感じることができます。それぞれの季節毎に町は彩りを変え、その度海の幸、山の幸を味わうこともできます。季刊版として昨年の春からスタートしたこの「学長通信」も、季節の香りを伝え切れたかは別にして、まずは無事一巡目を終えることができそうです。ご愛読?ありがとうございました。4月には多くの新入生がキャンパスにやってきます。学長通信も二巡目を迎えることになるでしょう。この繰り返しが実はとても尊いものであるということを噛みしめる今日この頃です。

今回の学長通信は広報誌秋号用ですが、主な話題は夏のお祭りに関することです。
東北地方には非常に多くの特徴的な夏祭りがありますが、私が初めて体験した東北夏祭りは仙台の七夕祭りで、仙台での大学院時代でした(1980年頃)。学部3年までは、実家の家業(農機具商)の手伝いのため夏休み早々帰省しており、仙台七夕とは無縁でした。また、学部4年の時は大学院入試の勉強にほぼ全ての時間を費やしており、さらに、七夕を見ると試験に落ちる、という都市伝説もあったためか、結局学部の4年間は七夕を見ることが出来ませんでした。

博士課程3年の夏には、ようやく青森ねぶた祭を見物することができました。研究室の2人の後輩と仙台から自動車で4号線を北上するという長旅でしたが、ねぶたの山車の迫力に圧倒されるとともに、跳人の熱気に大いに感動したものでした。
青森ねぶた祭りでの筆者(41年前、博士論文に目途が付き始めた27歳の頃)
その後、岩手大学に赴任して以来、夏祭りといえばもっぱら盛岡さんさ踊りでした。夏が近づくと学内では太鼓や笛の音が聞こえ始め、祭りシーズンの到来を感じさせてくれました。その後、観客として眺めたり、大学職員として参加したりしておりました(もちろん踊ったり笛を吹いたりの芸当は全くできず、単なる提灯持ちでした)。
そして今夏、300年余もの伝統ある八戸三社大祭を初めて見ることができました。山車の数の多さやそれぞれの装飾の華やかさ、雄大さや複雑な技巧が凝らされている点などは感動ものです。三社大祭が八戸の人々にとり大切な祭りであることは、300年もの長きにわたり引き継がれ発展している歴史が雄弁に物語っています。
三社大祭の一コマ(八戸中心街を練り歩く山車)
さて、大学での祭りと言えば、学園祭ですね。本学では開学以来「工大祭」を10月に開催しており、今年は第53回目となりました。学園祭は学生主導の一大行事であり、大学における学生の企画力、運営力を測ることができるものでもあります。名物グルメを提供し多くのお客を集める研究室、本学ならではのイベントを打つサークルなど、楽しいお祭りでした。今年度発足した女子学生活動団体「GAL’s」が精魂かけて育てたさつまいもを使った焼き芋は無事完売しました。地元アイドルや有名タレントを2日間にわたって招くなど、学園祭ならではの企画にも富み、本学で学ぶ学生たちの成長ぶりを大いに体感できた工大祭でした。やはり、祭りはいいものですね。多くの高校生の皆さんが工大祭を企画する側として八戸工業大学に入学されることを期待しています。
第53回工大祭ポスター(テーマはIgnition H.I.T. -始まりのスイッチ)
私が八戸に来てみて感じたことの一つに、スポーツが大変盛んな地であるということを挙げることができます。これは青森県全体にも言える事かも知れません。学校保健統計調査2024年度版では、成人男子で最も高身長な県は青森県と京都府で、その平均身長は171.1cmです(第3位は東京都)。成人女子では、青森県は、山形、東京、石川に次いで第4位です。なお、低身長県は男女とも沖縄県です。恒温動物の大きさに関するベルクマンの法則では、寒冷地(緯度の高い地方)の方が温暖地の恒温動物よりも一般的に大きいとされており、その影響もあってか青森県人は体格に恵まれているのでしょうか、スポーツ全般が盛んでかつ強豪県になっているように思えます。
八戸工業大学は残念ながらグループ校である八戸工業大学第一高等学校ほどスポーツで名を馳せたことはないようですが、学生達は青春の貴重な時間を賭してそれぞれの競技での高みを目指して頑張っています(勿論勉学にも励んでいます)。先日、硬式野球部の北東北大学野球2部春季リーグ戦を観戦する機会がありました。対戦相手は34年間勤務した岩手大学でした(と言っても、公式戦を見るのは初めてでしたが)。岩手大学はもともと1部リーグの強豪校ということもあり、当日は奮闘むなしく敗戦となりましたが、それでも球音鳴り響く野球場にいるだけですがすがしい気分になり、大学スポーツの醍醐味を感じ取ることができました。今後、山下繁昌新監督の指導の下、さらにチームが強くなっていくことを期待しています。また。野球以外の競技の観戦も楽しみです。
ところで、成人男性で最も高身長な国はオランダであり、平均身長は185cm程度だそうです。私もバルト海に面したオランダやスウェーデン、ドイツを訪問したことがありますが、皆見上げるように背の高い人たちばかりで、話しをすると首が痛くなるくらいです。実は200年くらい前はアメリカ人とオランダ人の成人男子の身長はほぼ同じくらいだったそうですが(当時のアメリカ人の多くはヨーロッパからの移民だったので当然なのかも知れませんが)、その後平均身長で20cm以上も差がついたことになります。その理由としては、移民間の交雑の程度の違いとともに、オランダ人の高身長夫婦の高出生率が影響しているという話を聞いたことがあります。ほんの僅かな出生率の違いでも生まれる子供の数に差があると、代を重ねるごとに大きな違いとなってくるのでしょう。日本は急激に出生率が下がっていることから、日本の人口は200年もかからずあっという間に江戸時代のレベルにまで下がってしまいます。イーロンマスク氏は、日本は近いうちに滅びるとの予言をしたそうですが、その予言が外れるようにするためにも、まずは東京一極集中の状況打破が必要であり、地方での生活が一層豊かで安全安心なものにする取り組みが重要です。そのような地域社会の実現にむけて八戸工業大学もさらに努力を重ねて参ります。今後ともご期待ください。
ご挨拶
はじめまして。2025年4月1日から八戸工業大学の学長を拝命している船﨑(ふなざき)健一です。東北大学で博士号を取得し、民間企業でジェットエンジンの研究開発に4年間従事したのち、岩手大学工学部・理工学部で34年航空宇宙関係の教育研究を行なってまいりました。国立天文台やJAXA(宇宙航空研究開発機構)の客員教授も経験しています。この度、ご縁あって八戸工業大学(通称八工大)に着任し、大学運営を担当することになりました。よろしくお願いします。生まれは雪深い新潟県上越市ですが、八戸と同じ港町で育っており、八戸はどこか懐かしさを感ずる街です。
さて、本学は1972年に工学系大学として創立され、以来八戸を拠点として、北東北のみならず広く全国からも学生が集い、幅広い教養と専門性に加え実践で活かせる応用力を身につけ社会に巣立っています。また、本学は北東北では唯一の工学系博士課程を有する大学でもあり、数多くの研究者、高度技術者を輩出している大学でもあります。さらに、本学は感性デザインという芸術系の学部も有していおり、アートやデザインなどを本格的に学べる課程が備わっています。スポーツをはじめ数多くのサークル活動も活発で、広いキャンパス内のいたる所で学生の明るい声が聞こえます。
このように伝統と実績に裏付けられ魅力溢れる八戸工業大学ですが、残念ながら外部への情報発信力が今ひとつという点は否めないところです。近々改組も計画しており、大学の教育研究力の飛躍的向上を図る予定ですが、その前に一人でも多くの皆様に本学の魅力をお伝えすべく、八工大学長通信なるものをはじめました。吉田兼好の徒然草ではありませんが、徒然なるままに、本学の魅力とともに、私的なお話、身の回りのお話などもお届けする予定です。SNSを使ったら、という声が聞こえてきそうですが、本学でもインスタやXなどでの発信も行っており、当面は別の角度から発信を行なってみたいと思います。
私の宝物は学生たちです
私は前職で長年にわたり大学教員を経験してきましたが、そこで得た最大の宝物は、私の研究室での研究活動に参加してくれた数多くの学生たちです。私が充実した教員生活を送れたのは、ひとえに学生たちのお陰と言って過言ではありません。彼らの多くは大学院修士課程に進学しているので、およそ3年間指導に携わっていることになりますが、初めは研究に関して右も左もわからなかった状態の学生たちが、研究室での活動を通じて立派な研究パートナーに成長していきます。彼らとの共同作業によりより多くの研究成果を挙げることができ、それらの大半は共著論文として発表するとともに、それに対していくつか論文賞などを受賞することもできています。さらに、卒業、修了したのちもOB、OGとの交流が続いていることも自慢の一つです。
今年の3月末に八戸工業大学での勤務が決まったのち、非常勤や客員の仕事をしていた岩手大学の研究室でささやかな送別会を催してもらいました。その際、私の定年退職の年に学部を卒業しそのまま大学院に進学した4名の研究室メンバーから,左の写真のようなタンブラーを戴きました。私の研究室では折に触れて慰労会と称した飲食のイベントを企画し研究室内の融和に努めてきましたが、まずはビールでという具合に、いつも決まった銘柄のビールで乾杯するのが習わしの様になっていました。その思い出も込めて真空断熱式のタンブラーがプレゼントされたものと考えています。似顔絵付きのタンブラーは、八戸で生活をするようになってからの愛用のタンブラーになっており、これにビールを注ぎながら八戸工業大学の運営に思いを巡らす日々となっています。
八戸の新緑の季節はもうすぐです
構内の桜並木もすっかり花びらを落としていますが、まだ新緑に染まるには早いようで、淡いピンク色を残しています。4月の名残を感ずる構内では、学生たちが元気に勉学に励んでいます。部活では、春のリーグ戦も始まり、新年度が本格的に動き始めたようです。今後も八戸工業大学の活動にご注目ください。